御意見無用2〜アフターサービス・2003年8月〜

 最近この講座をお読みになった方は、内容のところどころに時代とのちょっとしたズレを感じるかもしれません。時事ネタを織り交ぜてしまうと、時間とともにその部分から風化していき、しまいには意味が通じなくなってしまいます。たとえば、第5回の最後で女優と息子の例を引いています。この芸能ネタは、すでに多くのみなさんの脳裏から消えかかっていることでしょう。かといって、ネタを差し替えたり、注を加えたりするのも面倒なので、そのままにしてあります。

 それぞれの回を書いた正確な日付はおぼえていません。当講座を始めたのは、2001年夏頃だったと思います。2002年3月までに第8回までを書きました。その後、半年以上ほったらかしにして、2002年暮れから再開しました。そういうわけで、初期の回は書かれてから2年以上経っていますから、多少ボロが出始めています。

 今回、久しぶりに読み直してみました。おいおい、こんなヒドいこと書いていいのかよ、と我ながら呆れてます。でも、多くのみなさんがおもしろいといってくださいますので、大幅な手直しはせず、アフターサービスとして、みなさんからご指摘があった個所などを訂正させていただきます。


[第1回]だれか、特定の社会学者を批判しているのか

 宮台真司さんを暗に批判しているのではという意見も聞かれましたが、そういうつもりはありません。深読みのしすぎです。そもそも私は、宮台さんの著作を一冊も読んだことがありません。ですから批判対象にすらできません。宮台さんがどういう方なのかもよく知りません。もし、「宮台読まずして社会学を語るなかれ」とおっしゃる方がいたとしても、へえ、そうなんですか、としか答えられません。

 私の意図するところをいま一度申し上げましょう。「フリーター」「パラサイトシングル」「凶悪少年」などと、あるカテゴリーで人間を色分けして、そこから拾い上げた特徴を普遍的な真実であるかのように語ることは、アホらしいし、ときには誤っていて危険ですよ、といいたいのです。一部の社会学者やマスコミがそういうことをしているので、私は彼らの手法を逆手にとって、「社会学者」というカテゴリーの中の歪んだ部分を誇張・普遍化してみせたのです。ステレオタイプによる暴力ですね。恐いですね。

 「この社会は病んでいる。その病理を暴き出し、社会を良くしよう」などと意気込んでいる人がもっとも困るのです。このような、狂気の優等生とでもいうべき人が、わけのわからない研究結果で他人を攻撃するのでしょう。

 理系の学問であれば、危険な薬品や細菌を作り出して社会を破滅させたり、逆に病気の特効薬を発明して社会を良くすることも可能でしょう(でも、それにより人間の寿命が延びて、高齢化など新たな社会問題が起こりますけど)。しかし、社会学をはじめとした文系の学問には、社会を良くしたり悪くしたりするほどの直接的な影響力はありません。シェークスピアの研究をしている英文学者が「ふふふ。これで社会は良くなるぞ」とほくそ笑むでしょうか。パプアニューギニアの部族と生活を共にしている文化人類学者が「日本人も彼らのマネをして、社会を良くするべきだ」と主張しますか。なぜ、社会学者だけが妙な使命感に燃えているのでしょう。「あっ、ワタシ、社会とつながってる! ひとりぼっちじゃないんだ!」と確認したいのでしょうか。ついでに、本当の自分を探しに旅にでも出たらいかがですか。

 と、このような挑発的なことを書くので、社会学者の不興を買うのですが、ここでひとつ朗報を。どうも私の意図に反して、反社会学講座を読んで「社会学ってなんだかおもしろそうだ」と興味を示す若い人が増えているようなのです。もし来年の入試で社会学部の志願者が増加したら、それは私のせいかもしれません。


[第2回]昭和35年の強姦が異常に多いのは、売春禁止法が施行されたせいではないか

 一番多かったご指摘です。準教授、秘密結社首領(36歳)、主婦(44歳)ほかの方からいただきました。そうですね。これに気づかなかったのは、うかつでした。おそらく、少なからず関連があるはずです。関連があるという明らかな証拠はありませんが、逆に、関連はない、と否定するのも相当困難な作業になるはずです。

 もし関連があるとなれば、風俗店の存在には社会的意義があることのお墨付きになってしまいますので、この研究に二の足を踏む研究者も多いはず。そんな研究結果を発表したら、「あの先生、自分が風俗が好きだから、あんな研究したんじゃない? ヤラシー」とか「来週、変態教授の講義、休講だってよ。学会出席のためとか書いてあるけど、どんな学会だよ」などの会話が、日常的に学内を飛び交うことでしょう。小心者には耐えられません。そうなったらいっそのこと、「おう、そうだとも、オレは変態教授だよ」と開き直って、裸にエプロン姿で教壇に立ち、名物教授の名をほしいままにするのも、ひとつの人生ではあります。ただし、それで名声を得たとしても、おそらく『徹子の部屋』には呼ばれません。


[第2回]少年凶悪犯罪について

 最近、続けざまに少年凶悪犯罪が起こりました。善良な市民や正義のノンフィクションライターや道徳家のエッセイストが、凶悪な本性をむき出しにして暴力的な意見をぶちまけています。少年凶悪犯罪の件数や発生率は昔のほうが高かったという厳然たる事実を指摘しているのは私だけではないのですが、そういう少数派はパブリックエネミー(社会の敵)扱いです。ラッパーになった気分です。

 世間には、なにがなんでも「現在の」少年は凶悪だと証明したい人がおりまして、手を変え品を変え、こねくりまわされたデータが提示されます。たとえば、少年犯罪とオトナの犯罪の比率を比べたりします。そうすると、現在は昔より、少年による犯罪の比率が高いという結果が出るそうです。私はこのデータを検証していませんが、仮に事実だとして、だからどうなの? そこまでして、昔の少年は良い子ちゃんだった、つまり、今のオトナは良いオトナちゃんですよ、と主張したいのですかね。

 「凶悪犯罪を犯した少年、25人中22人に、前兆となる行動が見られた」というデータもありました。これのどこに問題があるか、わかりますか。比較対象がないというところです。凶悪犯罪を犯していない少年の中で、その前兆となる行動とやらが見られたものはどれくらいの割合でいるのか。そのデータがなければ、比べようがありません。前兆行動を示しながら、犯罪に走らず普通のオトナになる少年のほうが、じつは圧倒的に多いのかもしれません。

 犯罪者の心理分析とやらも、鵜呑みにはできません。「凶悪犯罪者の多くは、ささいなことですぐにカッとなる」などという、もっともらしい分析を耳にします。しかし、犯罪とは無縁の普通の人でも、カッとなり殺意を抱くことは、決して珍しくはないのです。

 道を歩いていたらガムをふんずけた。「うわ、くそっ、こんなとこにガム捨てやがったヤツ、殺す!」でも、実際にガムに付着した唾液のDNAを分析し、捨てたヤツを探し出して殺す人は、ごくわずかです。

 家事を当番制にして分担している、夫婦共働きの家庭。ある日曜日、ダンナが洗濯当番なのに、サボって釣りに出かけてしまった。「あの、つりバカ、絶対殺す!」でも、帰ってきたところを待ちかまえて、ダンナを包丁で活け造りにする奥さんは、ごくわずかです。

 だれにでもそういう経験はあるはずです。その一瞬の怒りや殺意はかなり激しいものです。実行には移さなかったものの、その一瞬の感情は、本物の殺意だったのかもしれません。だからといって、ささいなことでカッとなる人たちが全員、遅かれ早かれ凶悪犯罪を犯すということはありません。

 私はなにも、犯罪者を見逃せといってるのではありません。犯罪者を罰するのは当然です。そこに過剰に反応し、犯罪の予防を名目に、犯罪者と同じ特徴が当てはまるというだけで、何もしていない人や少年を犯罪予備軍扱いするのが許せないだけです。被害者や加害者の人権よりも、無関係な人の人権に配慮してください。


[第4回]

 第4回では、電話を引くときに7万数千円かかると書いています。その後、NTTは加入料を月割りにして毎月の料金と一緒に払う制度を導入しました。

 パラサイトシングルの回には多くの反響がありました。海外の若者の住宅事情を研究している方もいるとのこと。金持ち大家が若者から所得を吸い上げる構造は、万国共通なようです。


[第5回]

 住宅購入資金としてなら、親から贈与を受けても非課税になるという話。2003年に税制が変わり、さらにお金持ちの息子(娘)に有利になりました。550万円までだった非課税枠が、3500万円にアップしました。父・母、それぞれから3500万円ずつ非課税でもらえますから、夫婦であれば、合計1億4千万円もらって豪邸を建てられます。やはり、持つべきものは金持ちの親。


[第8回]なぜフリーターの肩を持つのか

 私はみなさんに、フリーターになれと勧めているわけではありません。フリーターであっても、べつにかまわないといっているだけです。それでその人の将来がどうのこうのなんてのは、個人の問題です。どんな立派な職業に就いたところで、ダメになるヤツはなるのです。

 フリーターが社会的な損失を生むだとか、社会に負担をかけるとする研究結果があり、私も目を通しました。しかし、こじつけとまではいいませんが、胸に迫ってくるような説得力もありません。みなさん、漠然とした不安や間接的な影響を心配しているだけです。

 戦争で国が滅ぶというのなら想像はつきますが、フリーターの増加や少子化が日本を滅ぼす、なんて説は、その具体的な結果が想像できません。滅んだ日本の様子をぜひ、ドラマやコミックなどにして見せていただきたいものです。


[第11回]

 私が入手できなかった新明解国語辞典第三版での「ふれあい」の記述に関して、箱入りプログラマ(34歳)さんが確認してくださいました。第三版ではまだ、「ふれあい」の見出しはなく、「ふれあう」という動詞形で載っているとのこと。ありがとうございます。

[第14回]

 大学の教員は夏休みが多くて実労働時間が少なくてラクみたいな話をしたら、そんなことはないという反論が数通来ました。すべて理系の方からでした。たしかに、文系と理系では、教員の実労働時間にかなり差があるような気がします。これは、労務管理上の問題として、大学側が研究すべき課題なのかもしれません。


[第16回]甲子園は大阪でなく、兵庫県にある

 編集者(46歳)の方からのご指摘です。その通りです。私のカン違いでした。もとより私はスポーツ全般に対する関心が薄いため、知識が乏しいのです。箱根駅伝というのは、箱根の山の中だけを走り回る競技だと、長年にわたって思っていました。数年前、東京からスタートして東京に戻ってゴールするのだと知ったときは本当に驚き、人に教えたところ、みんな知っていたのでがっかりしました。

 ところで、甲子園のある兵庫県西宮市の気温データはありません。西宮市役所にでも問い合わせればわかるのでしょうけど、そこまでやる気がありません。気象データがあるのは大阪と神戸で、西宮はちょうど中間あたりです。大分医科大学の倉掛重精さんの研究によれば、夏場の甲子園球場の気温は31〜36度になるそうですから、大阪の気温とほぼ同じと見ても問題ないでしょう。


 全般的なことですが、当講座ではほとんどの場合、承知の上で、あやしげな論理をつむぎ、ズレた結論を導き出しているつもりです。話の展開をおもしろくするために、心にもないことをいうこともあります。しかし、そういう場合でも、ネタとして使っている資料やデータは本物です。資料そのものを捏造することはありません。ただ、データの一部だけを見せたり、どうでもいいデータをむりやり比較したりするだけです。ただし、以上のアフターサービスでおわかりかと思いますが、本当にうっかり間違っていることもたまにはありますので、油断されませぬよう。

[目次]

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