『みんなの道徳解体新書』内容紹介

『みんなの道徳解体新書』
ちくまプリマー新書
税別780円
2016年11月発売


 去年でしたか、ビートたけしさんが書いた道徳の本が話題になりました。
 じつはプリマー新書で道徳をテーマにするという私の企画はすでに通っていて、かなり下調べを進めていたところだったので、たけしさんが道徳? やられたっ、とあせったのが正直なところ。しかし書店でパラパラと立ち読みしたら、安心というか、ちょっとがっかりしました。たけしさんの道徳に対するつっこみはとてもソフトだったのです。
 それよりも気になったのは、たけしさんが本を書くにあたって、道徳について勉強した様子が見られなかったこと。だからもっともらしいことをいってるけど、実際にはなんの根拠もない個人の主観、意見で終わってしまってるのです。本のなかに客観的で有意義な情報はまったくありません。
 なにごとも客観的な情報を叩き台にしないかぎり、まともな議論などできません。道徳の議論では往々にして、みなさん客観的な情報を得る努力をせず、自分の価値観を絶対正しいものとしてぶつけあうだけ。水掛け論にしかなりません。

 そこで私がお届けするのが、『みんなの道徳解体新書』です。単に道徳にケチをつけたりつっこんだりしてるだけの安易な本ではありません。
道徳のしくみと歴史を客観的に解剖し、論理的・科学的・歴史的な根拠をもとに再検討を加えた、これまでにない道徳教育入門書。
 これ一冊読むだけで、道徳について議論するための基礎知識を手軽に学べます。本書の情報をもとにすれば、根拠のない主観的道徳論を押しつけようとする連中との不毛な議論を避けることができます。


第一章 道徳のしくみ

 すべての学問は「なぜ?」からはじまるのに、道徳ではなぜと問うことは許されません。すでに正しいとされるオトナの価値観をこどもたちに覆されてはたまらないからです。
 批判や疑問を封じる一方で、道徳的に悪いことをしている政治家や官僚が、こどもたちに道徳を教えろと叫ぶ姿は悪趣味でしかありません。なのにそういう政治家がいまだに英雄としてあがめ奉られてます。
 この章では、道徳のしくみを学問的に解剖し、矛盾や問題点をあきらかにするというタブーに挑戦することを宣言しています。


第二章 読めそうで読めない道徳副読本

 2016年現在、学校で使われている道徳テキストは、検定を受けてないので教科書でなく副読本という扱いです。でもまあ事実上の教科書です。
 日本では教科書は特殊な印刷物であり、書籍ではないのです。ややこしいですね。で、調査をはじめていきなり困ったのが、国会図書館ですら教科書は所蔵していないという事実。道徳のテキストを読むのがこんなに大変だったとは……。


第三章 道徳副読本傑作選
第四章 おすすめの名作

 3、4章は現行の道徳副読本のなかからよりぬいたエピソードを紹介します。
 なんじゃこれ、と驚愕するシュールコントの祭典。なぜこの話を選んだ? その教訓はヘンじゃないか? てかそもそも、なにがいいたいのだ? そんな話が盛りだくさんで、選ぶのに苦労したくらい。
 道徳副読本で江戸しぐさが取りあげられているのが問題になりましたけど、他にもまだ捏造が疑われる歴史エピソードがありました。
 少数ながら名作も存在します。それも5編選びました。私はただ揚げ足をとってケチをつけてるだけではないですよ。いいものは、ほめます。


第五章 おもしろすぎる! むかしの道徳副読本

 江戸時代後期から、昭和33年までの道徳(修身)教育の歴史をコンパクトに、かつおもしろくまとめました。
 道徳教育を強化したがる人たちは「むかしはよかった病」患者なので、彼らは道徳教育の黒歴史を漂白して目に見えなくしてしまうのです。
 それを私は元に戻して見えるようにしてあげました。ああ、なんて親切な私。
 つい最近も、教科書出版社と教職員の癒着が問題になってましたけど、いまにはじまったことじゃありません。教科書検定でも検定委員にワイロ、各学校での採用に関しても校長にワイロ。教育現場の堕落を内偵していた警察が、ついに全国一斉摘発に踏み切り百名以上の逮捕者が出たのは明治35年のことでした。正義は勝つ! スカッとしますなあ。これこそ、道徳の教科書に載せるべきネタです。
 戦争賛美が強すぎることを理由に、終戦とともにGHQの命令で廃止された修身・道徳教育ですが、未成年犯罪の増加とともに、復活を望む声が高まります。実際にはオトナの犯罪のほうが断然多かったし、オトナの犯罪者は全員戦前の修身教育を受けて育ったことになんで気づかないんでしょうね。戦後は栄養が足りず、脳がまともに働かなかったのかな?
 昭和33年に道徳は復活するのですが、そこに到るまでの文部省と教職員の攻防は、映画やドラマにできるんじゃないかってくらいにスリリング。
 道徳復活なんてバカバカしい、古い連中が古い道徳を持ち出してるだけだと、反対派の急先鋒に立って過激な言動を繰り返していたのは、だれあろう、若き日の石原慎太郎さんでした。
 道徳研修会場の封鎖や、警官隊によるカーアクションシーンもあるので、これはやはり石原プロでぜひドラマ化を! 
 すったもんだで復活した昭和33年の道徳教科書の内容も非常におもしろいので、詳細は本書でご確認ください。


第六章 道徳副読本の問題点

 ひととおり勉強したら、現行の道徳教科書の問題点があぶり出されました。
 理想にかたよった家族像、しつこい樹木信仰、歴史と数学の無視、自己犠牲の賞賛。この4点に絞って検討します。


第七章 オトナが勉強しなくなるしくみ
第八章 いのちの大切さのしくみ

 7、8章は応用編。ここまでであきらかにした道徳のしくみを踏まえて、道徳という偏見に凝り固まった目と脳と心が、社会問題や人間の分析を歪めてしまっているかを、あきらかにします。
 ものごとをきちんと考えたくない、考えられる知力も考えようとする勇気もないオトナたちが、道徳という武器を振り回して自分とちがう価値観を持つ人間を蹴散らそうとしてるのです。
 私が文科大臣なら、道徳の授業をすべてやめ、代わりに論理学を教えることを提案します。理知的に考えることは冷たくなんかありません。情やこころで他人を批判する人のほうが、よっぽど冷血漢です。

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